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肥満の科学 ―体脂肪を減らすには―

夏を迎えてスリムなからだに想いを馳せる方も多いだろうが、古来、「は万病のもと」といわれてきた。生活の知恵として伝えられてきた言葉が、最近、科学的に裏付けられてきた。
 肥満と糖尿病、動脈硬化など生活習慣病との密接な関連について、遺伝子、分子レベルで急速に研究が進んでいる。肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病は「死の四重奏」とまで呼ばれ、このうち3~4つの症状を併せ持つ人は、心筋梗塞のような虚血性心疾患を起こす危険が通常より30倍以上高い、という調査結果も発表された。おなかをつまんで「この夏こそやせるぞ」と決意したのはいいが、問題はどうやせるかだ。若い女性に多い極端なは、骨がもろくなる骨粗しょう症の危険が指摘されている。男女ともに無理は禁物。うまく減量するためにも、まず肥満のメカニズムを知ることが大切だ。


肥満の基準は

 肥満は、簡単に言えば食事で摂取したエネルギーが、消費するエネルギーを上回り、脂肪として蓄えられた状態だ。
 日本肥満学会が肥満を計る基準としているのは「ボディ・マス・インデックス(BMI)」と呼ぶ指標だ。体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数字がBMI。170cmで70kgの人なら、70÷(1.7×1.7)=24.2となる。従来の身長(cm)から100を引いて0.9をかける、という単純な計算より、身長と体重の相関がより正確に表れる。
 男女とも標準とされるBMIは22。これは厚生省の調査で、統計上、最も病気にかかりにくい数字である(正確には男性は22.2、女性21.9)。標準体重の計算方法は身長(m)の2乗に22をかける。170cmなら1.7×1.7×22で、63.6kgとなる。
 肥満学会の判定基準は、BMIが標準の22から±10%、19.8~24.2の間が「普通」。この範囲なら病気にかかる率は標準値22とほとんど変わらない。10%多い24.2以上を「太り気味」、さらに20%多い26.4以上を「肥満」とし、BMIが大きくなるほど循環器疾患などの割合が急激に増えていく。
 ただし、BMIによる標準体重はあくまで目安。筋骨隆々のスポーツ選手は当然、BMIの数値が大きくなるが肥満ではない。
 一方、BMIは標準でも安心できない場合もある。若い女性に多い、いわゆる「隠れ肥満」のケースだ。一見やせ形なのに筋肉や骨と比べて脂肪が多い、つまり体脂肪率が高い人だ。運動不足が原因の場合が多い。
 体脂肪率は男性で15~20%前後、女性で20~25%が「普通」とされる。「肥満」は男性で25%以上、女性が30%以上だ。
 最近は体重計型の家庭用体脂肪計が普及している。からだに微弱電流を流し、抵抗値で体脂肪率を推定する方式だ。しかし、正確な体脂肪率の測定は難しく、計るたびに数字がばらつくことがある。また朝と夜、食前食後でも違う。測定は起床後など、いつも同じ時間に行い、数字はあくまで目安として、増減の傾向を知るのに役立てる程度にした方がいい。
 そこで問題の脂肪だが、松沢佑次・大阪大学教授は「同じ身長、体重でも、おなかのどこに脂肪がついているかで危険性は大きく異なる」と指摘する。
 おなかの脂肪には、「皮下脂肪」と、筋肉の内側の腹腔にある腸間膜に蓄積される「内臓脂肪」の2種類がある。危険な脂肪はこの内臓脂肪だ。
 松沢教授らが、エックス線CTで脂肪の分布と疾病の関連を調べたところ、内臓脂肪が多いタイプの肥満の人は、糖尿病、高脂血症、高血圧などの症状を高率に併せ持っていることが分かった。
 一方、皮下脂肪が多いが、内臓脂肪は少ないタイプの肥満では、こうした症状はあまりみられない。逆に、BMIは普通でも、内臓脂肪が多い場合には、やはり生活習慣病につながる症状が多かった。
 このため、松沢教授は、まず内臓脂肪が蓄積されることが糖代謝異常、脂質代謝異常の発症要因となり、動脈硬化が進んで心筋梗塞や脳卒中へとつながっていくと分析。「死の四重奏」をより正確にとらえた「内臓脂肪症候群」という考え方を提唱している。
 自分が内臓脂肪型の肥満か皮下脂肪型かを見分けるには、まず体型が参考になる。上半身は細く、おしりと太ももが太い、若い女性に多いタイプは主に皮下脂肪が多く、あまり心配はない。逆に上半身が太くて、おなかが出ている人は要注意。おへその横を縦につまんでみて、皮下脂肪の厚みが薄い場合は内臓脂肪による肥満と考えていい。


肥満遺伝子の発見

 京都大学元学長で神戸市立中央病院長の井村裕夫さんは「1990年代、20世紀の最後の10年は、肥満のメカニズムの分子生物学的な研究が大きく進んだ時期」と評価する。
 にかかわる体内の物質や遺伝子が相次いで発見され、「肥満はどうして起こるか」「なぜ太りやすい人と太りにくい人がいるのか」「肥満と病気の関係」などがかなり解明されてきた。特に、脂肪細胞それ自体の重要な役割が明らかになった。
 脂肪細胞には2種類あり、内臓脂肪や皮下脂肪の大半を占める「白色脂肪細胞」が、血中の余った栄養を脂肪として細胞の中に取り込む。成人になってからは脂肪細胞の数が増えるのではなく、1つひとつの細胞が脂肪で丸々と大きくなる。逆にエネルギーが不足したときは、細胞の中の脂肪を放出して必要なエネルギーを補給する。
 もう1つの「褐色脂肪細胞」は逆に、脂肪を燃焼し、エネルギーを熱に変えて放出する。もっとも、大量の白色脂肪細胞と比べ、褐色脂肪細胞は成人では首の後ろや肩甲骨の周囲などにトータルで数10gしかない。
 従来、脂肪細胞はこうしてエネルギーの「倉庫」と「焼却炉」としての単純な役割をしていると考えられていた。
 ところが、脂肪細胞それ自体が、脂肪を取り込むとホルモンやさまざまな生理活性物質を分泌し、「司令室」の役目もしていることが分かってきた。
 94年に発見されたホルモン「レプチン」は脂肪細胞で産生され、脳神経細胞の受容体に作用して摂食を抑制し、エネルギー消費を促進させる。マウスの実験で、レプチンを産生する遺伝子が欠損しているマウスや、脳神経の受容体の遺伝子が欠損している場合、際限なくエサを食べ続けて丸々と太り、糖尿病、高血圧、動脈硬化と、人間の生活習慣病と全く同じ症状を呈した。

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エネルギー消費に差

 また、脂肪細胞そのものの表面にある神経系の受容体も肥満の要因の1つとして注目されている。交感神経系からの信号伝達物質「ベータアドレナリン」を受け取る受容体の遺伝子のタイプによって、エネルギー消費に個人差があることが発見された。
 吉田俊秀・京都府立医科大学講師らの調査では、安静にしていて消費する「基礎代謝」のエネルギーが、遺伝子の型によって1日に平均200キロカロリーも違うことが分かった。日本人では消費エネルギーが少ないタイプの遺伝子を持つ人が3人に1人もいる(米国は10人に1人)。同じカロリーの食事をしても、毎日、ほぼビール中ジョッキ1杯分の消費カロリーの差が生じることになる。
 肥満にかかわるもう1つの物質が、褐色脂肪細胞の中にあり、脂肪を熱に変えるときに主要な働きをする「UCP」と呼ばれるたんぱく質だ。やはりUCP遺伝子のタイプによって基礎代謝のエネルギー量が異なり、吉田講師らの調査では、日本人の4人に3人が消費量が少ないタイプだった。
 肥満のメカニズムにはまだまだ不明な部分が多い。レプチン以外にも、特に内臓脂肪細胞が分泌するさまざまな物質は糖や脂質の代謝に影響を与えると考えられており、そのメカニズムの解明が急がれているところだ。
 また、内臓脂肪がつきやすい人、皮下脂肪がつきやすい人の遺伝的な違いは何かも分かっておらず、課題となっている。
 井村院長は「肥満は複数の遺伝子がかかわる多因子遺伝。これらの遺伝子は人類の長い歴史で有利に働いてきた」と分析する。
 一般の市民が必要以上の栄養を取るようになったのは今世紀でも半ばごろで、人類誕生からつい最近まで数百万年間は飢餓の歴史だった。エネルギーを効率よく貯め込み、消費エネルギーを抑える遺伝子を持つ人こそ、生き抜くのに有利な条件を備えていたわけだ。井村さんは「たった1つの遺伝子の異常で病気になる単因子遺伝性疾患と異なり、多因子遺伝は環境因子の影響が大きい。その意味でも、肥満は食事や運動量などが影響する生活習慣病だ」と指摘する。
 米国アリゾナ州に住むピマ・インディアンは典型的なケースだ。成人のほとんどが高度の肥満になる。しかし、メキシコに住むピマ・インディアンには肥満はいない。
 ピマ・インディアンは3億年以上前にアジアから北米大陸へと移動して、現在の米国とメキシコに分かれており、両者に遺伝的な違いはない。メキシコで、以前からの狩猟、採集を中心に質素な食事を続けている人たちは肥満にならないが、米国で動物性脂肪の多い高カロリーの食事をし、車で移動する生活が肥満と生活習慣病の多発を招いた。


無理なく減量を

 BMIが大きく、おなかをつまんでみたら内臓脂肪型の人は減量した方がいい。特に健康診断で血圧や血糖値が高めだった場合は、早急に減量が必要だ。
 しかし、食事制限や運動はつらい。肥満の基本的なメカニズムが分かれば、効果的に肥満を防ぐ薬剤ができないものだろうか。
 例えばレプチンは発見当時「夢の肥満薬」としての期待がかかった。ところが、レプチンにかかわる遺伝子の変異による肥満は、欧米で数例確認されただけ。国内では見つかっていない。むしろ太っている人は、脂肪細胞からのレプチン分泌が増えるため、血中のレプチン濃度は通常より高い状態で、レプチンを投与してもあまり持続的な効果はないとみられている。このため、レプチンは超高度の肥満の治療で使われる程度だ。
 京都府立医科大学の吉田講師は「『1粒3km』が21世紀の肥満薬の理想」と話す。食糧事情が悪いころは1粒で300mを走れるカロリーがあるお菓子が求められたが、飽食の時代は、1粒飲めば3km走ったのと同じエネルギーを消費する薬が求められる。
 しかし、こんな薬の開発はまだ先。当面は食事と運動が減量の基本だ。一般に20歳代前半の体重がその人にとって理想的な体重の目安とされている。しかし、いきなりその体重を目指すのではなく、まず数ヵ月で4~5kgを目標に、うまくいったら次を目指す、という長期戦が有効だ。
 書店には減量本がずらりと並んでいるが、1つの食品だけを食べてやせるとうたった「○○」には科学的根拠はない。また食事を極端に減らして急激に減量するのは危険だ。厚生省が年代、性別、活動量ごとに定めている栄養所要量を目安に、「月1kgから3kg」の減量ペースを守る。
 また、吉田さんは「太りやすいタイプの遺伝子を持っているからといって、減量ができないわけではない」という。同医大では外来の患者の遺伝子を調べて、摂取カロリーや運動量を調節することで、確実に減量の効果をあげているという。
 運動は減量の車の両輪だ。単にエネルギーの消費だけでなく、「血圧の低下」「善玉コレステロールの増加と悪玉コレステロールの減少」などの効果がある。
 食事制限だけでやせると、脂肪と同時に筋肉も落ちるために基礎代謝が減少し、元に戻る「リバウンド」に陥りやすい。
 しかし、適度な運動で筋肉を維持・強化しながら減量すれば、基礎代謝は減量前よりむしろ増加する上、運動をする習慣もつくので減量後の体重を維持しやすい、と一石何鳥もの効果がある。
 ただし、運動も無理は禁物。「急に走ってひざを痛め、動けなくなってかえって太った」という例は多い。軽く長時間続けられるウオーキングや水泳、サイクリングなどで筋肉や心肺機能のベースをつくり、楽しみながらスポーツを続けよ

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